関係者様

いよいよ夏本番です。この夏を皆さんはどのように過ごす計画でしょうか。

では、山崎通信をお届けいたします。
皆様のご意見やご感想も是非お寄せいただければと思います。
お知り合いの方にも、このメールを転送いただければ幸いです。

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____山__崎__通__信_______________2008.7.18_
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┃なぜ年金はこれほどの危機を迎えたのか
┃       〜財務省は「入るを量りて出ずるを制す」の原点に立ち返れ
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 前回までに、政府が日本国民から預かった厚生年金や国民年金の資産の
 運用に巨大なブラックホールが開いていること、そして、単に市場の下落
 ではなく、年金を運用する体制や仕組みに重大な構造的問題があることを
 説明いたしました。

 これまでにも、年金の構造改革は行われました。それなのにいったいどんな
 問題が積み残され、どこを変える必要があるのでしょうか。前の改革を
 振り返って検討してみましょう。

《1994年まで、ほとんど日本の債券と株式で運用されていた年金》
 年金の第1次構造改革と言うべきものは、1994年から1996年になされ
 ました。私が94年にゴールドマン・サックスに移って心血を注いだのも、
 この時の年金改革でした。

 当時の年金も大きな危機にありました。その頃は、大蔵省の規制に守られ
 て、政府が預かる国民の年金資産は、すべて日本の信託銀行と生命保険会社
 によって、そのほとんどが日本の債券と株式で運用されていました。横並び
 で満遍なく資金が配分され、資産が時価でいったいいくらなのかも分から
 ない簿価での評価しかありませんでした。そして、運用機関の手数料や
 証券会社への手数料なども分からない、という情報公開なきブラック
 ボックスのようなやり方を続けていました。

 そこへ、バブルの崩壊と日本の金融機関の不良債権問題が襲いました。
 日本株が急落しただけでなく、資金を運用する金融機関の経営危機が始まり
 ました。日本経済が長期の構造不況に突入していくことは明らかでした。

 特に危ないのは生命保険会社に預けた資金でした。当時の国の契約では、
 生保が破綻したら、国民の年金資金が大きな損失を被るからでした。

 また、資金のほとんどを日本の債券と株式に投資しているために、株の
 急落と債券利回りの低下(一時的には保有債券は上昇するのですが、償還を
 迎えたものは低い利回りに変わるからです)の両方による運用利回りの
 悪化の懸念が膨らんだのです。

 つまり、大蔵省に守られた護送船団方式の運用機関選びと日本に偏った
 運用資産の双方から、年金は重大な危機にあったのです。これに対して、
 日本国内でも、構造改革を求める動きが活発になりました。経済界や労働界
 では、年金資産の運用を変えるべきだという声が高まりました。

《1995年、外資系金融機関の参加と情報公開が実現》
 当時の厚生省でも、浅野史郎・前宮城県知事や辻哲夫・前厚生労働事務次官
 などの方々を中心に年金運用を変えようという強い意志に基づいた行動が
 始まっていました。しかし、生保と信託銀行の既得権を守る当時の大蔵省の
 厚い壁がありました。

 一方、米国を中心に外資系金融機関も、日本が年金運用業務を開放すること
 を、日米包括経済協議などの場で要求していました。当時私は、民間側で
 ある米商工会議所の投資問題小委員会の委員長会社として、こうした日本の
 中の年金改革への要望を盛り込んで、民間側代表として、米財務省への
 意見の取りまとめを行いました。

 当時の大蔵省の中にも、榊原英資・国際金融局長や長野彪士・証券局長、
 杉井孝・銀行局長といった、広い視野と国際性を持った要路の方々がおられ
 ました。米財務省側は現在ニューヨーク連銀総裁のティモシー・ガイトナー
 氏が日本との責任者でした。

 集中した折衝の結果、95年1月、日米包括経済協議が妥結し、日本の年金の
 大改革が決まり、96年からの橋本龍太郎内閣の金融ビッグバンの中心
 として決定しました。

 その結果、国民の年金資産は、海外にも広く運用し、海外の金融機関も
 運用に参加し、現在見られるような、透明性が改善した情報公開と手数料
 などのコストの開示が行われ、さらに、運用資産が時価でいくらになって
 いるのかという時価評価も情報開示されるようになりました。

《生保破綻前に8兆円の契約を解除、1円の被害も受けなかった国の年金》
 こうした結果から、年金を運用する当時の年金福祉事業団は、破綻に
 よる減額のリスクが法的にある生保との8兆円に上る契約をすべて解除
 しました。その後生保の破綻が相次ぎました。そのまま放置していた
 民間の年金では、破綻した生保に預けていた資産の半分程度を失った
 ケースもあったのです。しかし、民間の年金基金とは違って、すべて
 解約の決断をした国の年金は、契約の減額などの被害を1円も受けて
 いないはずです。この成果は、もっと評価すべきではないでしょうか。

 年金の資産配分にも、外国の株式や債券へ2割ほど運用する方針が
 決定し、運用の委託先として、内外の運用機関が広く参加することに
 なりました。

 確かに、外国資産への運用の増加や、それに強い外資系の採用の成果は
 ありました。第1次年金改革がスタートした96年4月から最近までで、
 日経平均は、2万2000円のレベルから1万3000円台と60%のレベルまで
 下がっています。年率複利利回りはマイナス4.2%です。一方同じ期間で、
 米国のダウ平均は206%(年率利回り6.2%)になり、ドイツのDAX指数は
 245%(同7.7%)に、香港のハンセン指数は193%(同5.6%)に上昇して
 います。

 ですから外国株に入れていた資金はおよそ2倍になり、4割も目減りした
 日本株に入れた資金を補ったわけです。でも、逆に言えば、十分な調査
 とリスク管理をしたうえで、外国株への配分を増やしておけば年金財政
 はもっと好転したはずなのです。

 外国債券に入れていた部分も相当貢献しているはずです。グローバル
 債券(円建)指数を見てみると、234%(同7.4%)に上昇しています。

 そして、為替の面でも、円ドルレートは96年当時と今はほぼ同じ、
 円ユーロレートは99年の130円台から現在の160円台まで円安に推移
 していますから、外貨資産への運用によって、若干の収益改善が
 見られるはずです。

《しかし、このまま国債に縛り付けていれば年金の隠れ損失は巨大に》
 でも、今の年金危機は深刻です。96年の第1次年金改革では、もう
 間に合わないのです。少子高齢化と低成長はいよいよ現実のものに
 なりました。団塊の世代が引退する日本の経済も財政も、このまま
 ではさらに苦しくなります。

 それなのに、戦後型の太平洋ベルト地帯と東京中心、米国向け輸出
 に適合した国土のかたちも変えません。極端な大都市圏と地方の
 格差、その裏返しである大都市の地価や生活コストの高さ、そして、
 地方経済の疲弊は止まりません。そして、日本経済の低成長の裏返し
 が10年間も1%台にとどまる日本の国債金利であり、長期低迷を
 抜けられない日本株なのです。

 今のまま、国民の年金資産の3分の2を日本の国債に縛り付ければ、
 その部分の100兆円は、国民に約束した資産運用利回りを確実に
 下回って、巨大な年金財政の隠れ損失になります。

 日本株は外国株より多い、という暗黙のルールで資産の配分を
 縛り付ければ、長期の収益は上がらないでしょう。

 また、今年のように、株式が世界的に暴落する時には、世界の
 金融機関が必死で取り組むように、ヘッジ手段を使ったり、安全
 資産を増やさなければ損失は拡大します。こうした、資産運用の
 9割を占めるはずの資産配分の仕事を国が放棄したままなら、
 国民の年金も共倒れになり、財政もさらに悪化し、大幅な増税か、
 保険料引き上げか、年金切り捨てしかなくなるのです。

《年金の第2次構造改革は待ったなし》
 国民の年金資産を運用し、高い利回りを上げ、それによって年金
 財政を改善し、保険料を抑え、給付を支えるという、今の制度を
 運営しているからには、政府には、国営金融機関として、国民に
 約束した一定の資産運用利回りを確保する義務があるはずです。

 それなのに、資産運用の9割の結果を左右するはずの資産配分の
 役目を放棄しています。そして、債務より利回りが低く、逆ザヤ
 が確定する国債に3分の2の資産を入れ続ければ、残りの資産は
 サーカスのように高い利回りを上げなくてはいけないはずです。

 第2次構造改革を行い、責任にふさわしい権限と処遇と尊敬を
 付与した新しい組織に、国の年金資産の運用部門を委ねるよう
 改革することは待ったなしです。それでないと、せっかく政治家
 が政治生命を懸けて消費税を上げても、年金資産の得べかりし
 利益(逸失利益)というブラックホールに消えていきかねない
 のです。

《根本的変化を起こせなかったことに深い失意を覚えた》
 かつて私は、心血を注いだはずの第1次年金改革で、ビジネス
 マンとしては多少の仕事ができましたが、結局、一国民の視点
 から見ると、根本的変化を起こせなかったことに、深い失意を
 覚えました。個別の運用会社のビジネスが成功したところで、
 年金改革や金融ビッグバンで日本の年金がよくなったとは到底
 思えなかったのです。

 まして、道路公団や郵政の民営化だけで、日本経済が根本的な
 体質転換をできるとはとても思えませんでした。世界が、
 米国中心の経済からアジアの新興国中心の成長構造に変わる
 中で、日本が、米国一辺倒で東京一極集中の繁栄を前提とした
 戦後の国土と経済の仕組みを維持し、地方や農林水産業を
 切り捨てたまま21世紀に発展することは不可能に思えました。

 東京に本社を置く大企業も、世界での競争に生き残るために、
 海外に出ていき、国内の人件費は削ることで収益を上げます。
 すると、仕事がない地方から東京に出てきた多くの若者たち
 には不安定な非正規雇用しかなく、結婚もままならなくなり
 ました。少子化の悪循環です。

 「三丁目の夕日」の頃には、若者は、金の卵ともてはやされた
 のに、今では何をするか分らないフリーター、と多くの大人
 たちに蔑まれています。人が最大の財産であるはずの日本が、
 若者を大切にしなくなって、未来があるのでしょうか。かと
 いって、現実には、東京、名古屋、福岡、といった国土の
 ほんの限られたところにしか成長が見られないのです。政府が
 お金をばらまいても経済の行き詰まりの解決にはなりません。

 それだから、国土と交通の構造を変えるところから始める
 しかない。日本全国に成長のチャンスがある、そして、
 各地がアジアを中心とした海外と直接に結びつく、そのため
 には、東京だけが便利に設計された国土を変えることが出発点
 になる。そうした主張を、2002年から、高速道路無料化を
 皮切りにして始めたのでした。

《不可解な財務行動はすぐにやめるべき》
 しかし、私のような主張が実現するのかどうかは分かりません。
 客観的に見れば、日本での少子高齢化と世界での新興国の
 勃興によって、日本経済の一層深刻な衰退と地盤沈下が続く、
 と考えざるを得ません。それならば、日本の国債や株に国民の
 年金資産を縛り付けるのは、国家としても、財政としても、
 自殺行為と言っていいでしょう。

 英語では財務省はトレジャリーと言われます。つまり、企業の
 財務部長と同じ種類の言葉です。もらいを増やして払いを
 減らす。入るを量りて出ずるを制す。これは財務の基本のはず
 です。日本国政府の財務を預かる財務省の役割も同じではない
 でしょうか。

 せっかく超低金利の国債で資金調達しながら、一方で財政が
 責任を持つ年金資金で、超低金利の国債を買わせ、その結果、
 隠れ財政赤字を拡大するような、不可解な財務行動を財務省が
 率先してやめるべきです。

 国債に大きく資金配分するのは、あくまでも資産配分の戦略的
 問題であり、常識的に言っても、高金利になり、国民に約束
 した利回りを充足できる時でしょう。

 第1次改革から12年を経た今、日本の年金は、第2次の改革を
 必要としていると思います。内外の各立場の責任ある人たちが
 動いて、国民のための行動を起こしてほしいと思います。


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┃新刊『次のグローバル・バブルが始まった!』重版決定しました
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 7月4日に発売した新刊本、重版が決定しました。
 皆さんのご支援のおかげです。ありがとうございました。
 引き続きよろしくお願いします。

 ○『次のグローバル・バブルが始まった!』
  朝日新聞出版 定価1,360円(税込み)
  http://www.yamazaki-online.jp/book/080704.html

 日本の投資家が「これからしばらくは海外への株式投資は控えるべきだ」と
 考えたとしたら、それは大きな間違いです。
 なぜなら「先進国共通の経済低迷」というまさにその理由によって、
 新興工業国にはかつてないバブルが生まれるからです。
 そしてそれは先進国経済にも波及効果をもたらし、世界規模の「グローバル・
 バブル」というべきものに膨れあがってゆくでしょう。


 以下も好評発売中です。

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  講談社文庫 定価720円(税込み)
  http://www.yamazaki-online.jp/book/080620.html
 
 構造改革や民営化で日本は復活したのか?答えはノーです。
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 それができれば、日本が再び世界経済のリーダーとなり得るのです。

 2004年に出版した同タイトルの文庫版です。
 文庫化するにあたり、現代に合わせて加筆・修正しました。


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 この道路問題から見えてくるのは、日本全体の病んだ姿です。
 道路問題を解くことは、日本を立て直すことに通じます。
 終戦直後に作られた道路の仕組みを改めて、日本をもう一度元気にしま
 しょう。それができるのは今しかないのです。


 ご意見・ご感想をお寄せいただければと思います。

● 次号は再来週お届けいたします。どうぞお楽しみに!
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