あっという間に春が来て、桜もあっという間にほとんど散ってしまいましたね。
皆さんお元気でいらっしゃいますでしょうか。

『山崎通信』第19号をお届けいたします。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
____山__崎__通__信____________2005.04.15_第19号
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃推理「郵政民営化を強行しなくてはいけない理由」
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 いま小泉政権は、去年9月に発表した「郵政民営化の基本方針」を堅持して
 強行突破を図っています。しかし、その内容は5年前に大向こうをうならせ
 た当時の小泉議員の郵政民営化案とはかけ離れています。5年前には、郵政
 民営化の最大の目的は財政再建であり、そのためには、財務省を中心と
 した国営金融機関である財政投融資(財投)の解体が必要である、と
 高らかに謳っていました。しかし、いまの「基本方針」には財投や財務省の
 「ざ」の字も出てきません。その代わり日本の衰退につながる内容が満載
 です。いまさらそんな民営化による国営メガバンクを作っても、郵便局は
 分割されてコストアップになり、経営が圧迫され、国土の大半を占める
 過疎地域の何千という零細郵便局はいずれなくなるでしょう。新しく誕生
 する国営メガバンクに圧迫されて、地域の金融機関の経営破綻も相次ぐ
 でしょう。そして、業務拡大を図った国営メガバンクが経営破綻すれば、
 国民負担が増えることになります。そもそもいま黒字であり税金が使われて
 いない郵便局を民営化したところで、税金負担が減るわけではありません。

 民間銀行の破綻が続いたこの15年間にも、日本が韓国のように国際機関の
 管理下におかれることなく、金融の独立性を保てたのにも、郵便局自体には
 不良債権がなく健全だったことが大きく貢献しました。また、日本は、
 中国やインドなどに比べて地域の間の貧富の格差がはるかに少ない平等社会
 をつくることに成功しました。それにも貯金と保険、郵便という近代国家の
 インフラを、全国津々浦々で提供してきた郵便局が大きく貢献してきた
 のです。郵便局は、「国土の均衡ある発展」を掲げた自民党戦後政治の
 最良の部分ではなかったのでしょうか。それなのに、自民党総裁がこの
 日本の強みを葬り去ろうとしています。普通に考えたら理解できません。
 なぜ急いで小泉・竹中流郵政民営化が必要なのか、あえて推理してみました。

 まず、財投問題とは、財務省を中心とする官の不良債権問題なのですが、
 郵貯を犯人に仕立て上げることによって、財務省と特殊法人はその責任
 逃れができます。いま、財投の仕組みのなかで、財務省理財局が郵貯、
 簡保、そして年金から360兆円(メガバンク4行の貸出金の1.5倍)もの
 資金を借りて道路四公団などの特殊法人に貸しています。30年以上前は
 優良貸出先だったのでしょうが、いまでは本州四国連絡橋公団のように、
 元本どころか利息も払えない破綻借入先が続出し、債務減免までして
 もらっている始末です。貸し手は財務省であり、借り手は特殊法人等で
 あり、その間の不良債権問題です。財務省への預金者である郵貯や簡保や
 年金には直接責任はありません。ところが、郵貯が悪いということに
 すれば、貸し手も借り手も世間の追及を逃れられます。

 つぎに、民間銀行の不良債権問題の責任も郵貯に転嫁できます。バブルの
 処理を怠った銀行、金融・財政当局、政治家によって、国民は38兆円もの
 不良債権の処理費用を負担してきました。その多くは国が立て替えています。
 これから銀行が返していかなくてはならないのですが、到底払えない
 でしょう。銀行と金融・財政当局の重大な責任です。ところが、郵貯は
 2007年以降、銀行の預金保険機構に強制加入させられます。今後、郵貯の
 資金を民間銀行の不良債権処理の返済に充てることができれば、金融・財政
 当局と銀行の利害に一致します。

 さらに、郵便局を銀行、保険会社、運送会社に分割してしまえば、財務省
 や国土交通省の縄張りが増えます。こうしてみれば、郵政民営化は、これ
 からさらに増える財政赤字の原因をわからなくし、銀行の不良債権の処理
 を押し付け、さらに権限を焼け太りさせることができるという点において、
 財務省、特殊法人および銀行にとっては最良のシナリオ、という推理が
 成り立ちそうです。大蔵族(いまは財務族)である小泉さんとの合作と
 いうのも、推理として納得がいきます。小泉内閣最大の公約である郵政
 民営化という名をとるためには、その実がかつての公約と正反対であって
 もいい、ということでしょうか。

 ここまで推理して小泉さんに同情したくもなってきます。小泉政権は、
 15年にわたる民間銀行の不良債権問題にようやく決着をつけました。
 大きな功績です。そのためには、財政を担当する財務省、さらに財務省の
 別働隊ともいえる金融庁の協力は不可欠でした。一方、郵政民営化の当初の
 目的だったはずの財投問題の本当の解決には、財務省理財局の解体・再生を
 はじめとして、財政当局に本格的にメスを入れることなくしては不可能です。
 財政当局を片方で味方にしながら、もう一方で敵には回せない、というのが
 小泉内閣の限界ということでしょうか。また、財投問題の主役である財務省
 にしても、郵政と年金の資金を財務省が特殊法人などを通じて政官業の利権
 に配っていく仕組みを完成したのは、田中角栄元首相を始めとした政治家だ
 という言い分もあるでしょう。しかし、こうして同情していては日本の
 財政は破綻してしまいます。ポスト小泉の政権が財務省を中心とした官に
 切り込んで不良債権問題の処理に取り組むことが、財政再建のためには
 不可欠になります。

 真の財投改革を行えば、財務省からの独立という郵便局の本当の課題と
 方向性も見えてきます。郵便局は、かつて大蔵省銀行に預けさえすれば
 国債を大きく上回る利回りを保証されました。いまは、財務省銀行は、
 高利回りどころか、不良債権の損失を抱えています。いずれ郵便局は
 財務省から独立して、自分で利回りを稼がなくてはいけなくなります。
 実は、郵便局がおかれた問題は、農林中金、信金中金等の系統金融機関の
 経営課題と共通します。農林中金などはこの問題に見事に応え、徹底的な
 証券中心の分散投資とリスク管理によって、国内金融機関最高の格付けを
 維持しています。貸付中心の一般銀行とは好対照です。それなのに小泉・
 竹中民営化によって、一般銀行と同じような郵貯銀行を作ろうとして
 います。それではコストとリスクが上昇します。本末転倒です。一般銀行
 と競合せず、業務制限がある形でビジネスモデルを変更するほうが合理的
 であり、民間を圧迫しません。

 財政再建につながるこうした真の改革は、ポスト小泉政権の課題のはず
 ですが、はなはだ心もとないのが現実です。最大野党の党首は、国会の
 党首討論で郵政民営化について一言も触れなかったそうです。与党内の議論
 も対案が出てきません。これでは、せっかく小泉首相が挑戦してできな
 かった財投改革による財政再建の灯は消えてしまうでしょう。
 名探偵は現れないものでしょうか。


 /_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
● 次号は2005年5月中旬にお届けいたします。どうぞお楽しみに!

 ………………………………………………………………………………………
 ★メールアドレスの変更をご希望の方、またメールをご不要な方は、
  下記URLよりお手続きをお願いいたします。
 ◇メールアドレス変更 : http://www.yamazaki-online.jp/change.html
 ◇メールマガジン解除 : http://www.yamazaki-online.jp/stop.html

 ★また『山崎オンライン』上でも、随時、変更・停止手続き可能です。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
──●          山崎オンライン事務局
─■⌒■───────────────────────────────
      http://www.yamazaki-online.jp/
      E-mail: yyonline@yyoffice.co.jp

○出所の明記をする限り、転送・転載は自由です(ご連絡頂ければ幸いです)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━