関係者 様

吹く風もどことなく夏めいてまいりました。皆さんお元気でいらっしゃい
ますでしょうか。『山崎通信』第40号をお届けいたします。

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____山__崎__通__信____________2007.5.30_第40号
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┃宗像さまをご存知ですか
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 先日、対馬海峡のうえを飛びました。102年前の1905年5月27日に、まさに
 皇国の興廃を決めた日本海海戦の戦場です。それは、負け続けた東洋が
 西洋に勝った戦いでもありました。

 当時最強といわれたロシア帝国のバルチック艦隊を、東郷平八郎率いる
 連合艦隊が全滅させたのでした。その50年程前にはペリーの黒船に仰天
 していた日本が大勝利して、中国からトルコ、エジプトからフィンランドに
 いたる国民を熱狂させ、白人社会には強い警戒感を抱かせて黄禍論を引き
 起こしました。日本に学んで独立せよ、日本よ、有色人種のリーダーたれ、
 という声が澎湃と起きました。

 中国にも明治維新を起こそうと、中国国民党の孫文などが立ち上がり、
 頭山満や犬養毅をはじめとした多くの日本人が運動を支えました。でも、
 1887年に「三酔人経綸問答」で中江兆民が喝破した、「中国とは同盟して
 兄弟国となり、敵に回すのは下策」、「中国こそ大きな市場、尽きること
 なき利益の源泉」の道を日本は進みませんでした。日露戦争後には、韓国を
 併合し、第一次世界大戦でヨーロッパ列強が忙しいときに中国に対華21ヶ条
 要求を突きつけ、「ちっぽけな日本が今頃になって侵略は気狂い」と兆民が
 評した道を歩みました。中国での日本崇拝は反日運動に変わりました。

 1492年のコロンブスのアメリカ「発見」から始まった古いグローバリゼー
 ションでは、イギリスが覇者となりました。戦争と侵略と植民地支配が
 ビジネスモデルの根幹にありました。軍隊を持ちインドの支配に成功した
 イギリス東インド会社が、インドで作ったアヘンを中国に売ろうとして
 イギリスが起こしたのが1840年のアヘン戦争でした。清国の敗戦の衝撃は、
 日本で明治維新を生み日露戦争に勝つ力になりました。

 アメリカ発の世界大恐慌の中から生まれたナチスドイツと手を組んだ日本は
 第二次世界大戦に敗れましたが、戦後世界の中でドイツとともに経済大国の
 地位を占めてきました。戦後に、新しいグローバリゼーションのルールが
 始まったからでした。

 そして、21世紀のいま、共産党支配を堅持する中国と最大の資本主義経済
 であるアメリカとの相互依存関係が、新たな世界のルールを形作って
 います。拙著『米中経済同盟を知らない日本人』のテーマです。

 そんな重みを持つ日本海海戦の旗艦三笠の羅針儀は、神恩に感謝した
 東郷元帥から玄界灘に近い福岡県の宗像大社に奉納されました。いまは
 訪れる人も少ない神宝館でみることができます。

 宗像大社は、天照大神が、弟であるスサノオの剣を噛み砕いて霧にして
 口から吹いたときに生まれたといわれる三人の女神を祀る由緒の古い神社
 です。一人の女神は海の正倉院といわれ国宝8万点が出土した、沖合
 80キロの孤島沖ノ島に祀られています。もう一人の女神は、安倍首相の
 ご先祖の安倍氏が後三年の役に敗れてはるばる東北から移り住んだと
 いわれる大島に祀られています。

 文字が伝わる以前の神話の時代から宗像大社を祀ったのが、胸形氏、
 のちの宗像氏でした。胸形とはイレズミをさすともいわれ、宗像氏は古代
 から玄界灘の荒海を渡る航海術を持った海洋族であり、漁業と交易を支配
 し、朝鮮半島との行き来をしていた古代の豪族でした。出雲、安曇と
 いったほかの海洋族と並ぶ有力な一族でした。朝廷は、航路を守り朝鮮
 半島からの侵入を防ぐ役割を宗像氏に依頼し、宗像大社の大宮司の職を
 ゆだねました。宗像氏は朝廷との関係を深め、7世紀には天武天皇に妃を
 入内させ、生まれたのが太政大臣となった高市皇子でした。

 宗像氏の歴史に驚くのは、柔軟で現実的で先見性のある生き残りの戦略
 です。大陸との交易が盛んになった中世には、宋の商人と縁組し、巨万の
 富を築きました。いま宝物館で見られる20センチ近い金銅の見事な龍の
 彫り物など、おびただしい財宝を絶海の孤島である沖ノ島に奉納し続けた
 のを見れば、その栄華と力がしのばれます。さらには、宗像氏は武士に
 身分を転じ、元寇においては戦功を挙げました。南北朝の乱世では、
 九州に逃れてきた足利尊氏に味方して戦い、見事な鎧を奉納されて
 います。宗像氏は、16世紀の終わりに秀吉にお家断絶にされるまで繁栄を
 続けました。

 中国、インド、そしてベトナム。日本もようやく徳川時代の鎖国以前の
 国際関係をとりもどしつつあります。しかし、いまの日本では、日本海や
 玄界灘が表の海であり、国家防衛線でもあった時代や土地の記憶は片隅に
 押しやられたままです。日本人がどのように大陸と付き合い、海洋民族と
 して生きてきたのか、その苦労も経験も忘れられています。

 アメリカが唯一最大のお得意様だった高度成長と東京中心の戦後の常識
 から、複眼の思考と行動の原理に移行するときではないでしょうか。
 宗像氏のサバイバル戦略に学ぶのは21世紀の我々ではないでしょうか。


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 ぜひお手にとってみていただき、皆さんのご意見・ご感想をお寄せ
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 ●次号は2007年6月下旬にお届けいたします。どうぞお楽しみに!

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