関係者様

秋もいよいよ本格的になってまいりました。

昨日に引き続き、日経ビジネスオンライン「東奔西走」に掲載された第2回目の
コラムを山崎通信の号外としてお届けします。こちらも、読者が選ぶ注目の記事
においてランキング1位となりました。皆様にご支援いただき、大変ありがたく
存じます。

またもや長い文章となってしまいましたが、最後までお付き合い下さい。
皆様のご意見やご感想も是非お寄せいただければと思います。

お知り合いの方にも、このメールを転送いただければ幸いです。

日経ビジネスオンラインへのリンクはこちら↓
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20071001/136430/

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
____山__崎__通__信_______________2007.10.12_
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃首相まで世襲の組織的必然
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
《英国、中国とは雲泥の差の政治家選びと育成手法》

 かつて「日本株式会社」という言葉がありました。畏敬と警戒の念を込めた
 Japan Inc.という言葉もありました。

 それでは、福田首相が総裁を務める自民党を会社に例えたら?

 実にユニークな会社です。

《いつの間にか日本の首相まで世襲制になってしまった》
 自民党株式会社は、60年にわたって政治業界で圧倒的な地位にありました。
 何しろ、国民は皆自民党株式会社の商品を買う義務があるのです。もしお金
 を出さなかったりしたら、脱税などの罪で刑務所に入れられるかもしれませ
 ん。それほどに、政治業界でトップになると強い力を持ちます。

 自民党株式会社の総裁は半ば自動的に日本国首相になってきました。

 ただ、その会社の商品は、昔は良かったが今の時代に合わなくなった、とい
 うのがもっぱらの噂です。それに乗じてライバル会社も伸びているのですが、
 まだ自民党株式会社の天下は続いています。

 気がかりなのは、昔からのお客さんたちがくたびれてきたことです。
 地方のファン層は、景気が悪くて青息吐息です。団体客も減ってきました。
 都会の若いファンは先々代の小泉社長時代にはちょっと増えたのですが、
 また当てにならなくなりました。

 自民党株式会社が変わっているのは、人事部がないことです。その代わりを
 務めるのが後援会と派閥です。議員は、それぞれ自分の好きなキャリア社員
 を採用し、後を継がせていいのです。昔は役人の経験者や秘書を社員に採用
 することも多かったのですが、このごろは、自分の子や孫を採用することが
 多いようです。

 その原因はいろいろ言われていますが、結局、お互いに都合がいいのでしょ
 う。議員にしても周りの人にとっても、血のつながった子や孫の方が何かと
 安心なのでしょう。引き継ぎも簡単です。

 採用される子や孫にとっても都合がいいのです。自民党株式会社では、仕事
 を進めるための人手やお金はそれぞれの議員が自分で賄います。
 それが後援会です。つまり、自民党株式会社の中にさらに小さな会社がいっ
 ぱいあるわけです。

 だから、両親や祖父母から財産を引き継げる議員の方が、出世競争では断然
 有利です。もちろん一から議員になる人もいますが、自分でお金や人手を
 整えるのに人生のかなりの部分を費やしていますから、年を食っています。

 その会社は相当厳格な年功序列の出世システムを持っています。だから若く
 して入社できる議員の子や孫は出世します。たたき上げの年を食った人の
 出世は遅れます。時々年功序列を超えた総裁が誕生することもありますが、
 それはかつての総裁の子や孫に限られてしまうのです。

《現代に求められる岸信介、吉田茂、田中角栄、福田赳夫クラスの人材》
 こういうやり方を続けているうちに、ついに、総裁レースに参加できるのは
 それまでの総裁の子や孫だけになってきました。それ以外の議員には、ほと
 んどチャンスはありません。

 だから、50年前の大首相の孫である先代の安倍首相に自由競争とか市場原理
 とか言われて白けた人も多かったようです。このごろの自民党株式会社の停滞
 の原因はこうした総裁選びに原因があるのではないか、そんなぼやきも一般
 の党員や古くからのお客さんから出ているようですが、何しろ表に出せる話
 ではありません。

 さらに根本的な問題は、世襲に基づくトップでは日本の真の改革が困難な
 ことです。

 今、世界は冷戦から米中経済同盟を機軸とした新しいグローバリゼーション
 の構造に変わり、日本も米国中心、東京中心の国の形を大胆に変更する必要
 があります。今こそ、岸信介や吉田茂、田中角栄や福田赳夫といったクラス
 の指導者のパワーと構想力が必要なのです。

 彼らがその時代にやったことをなぞるのではなく、彼らが今の時代に生きて
 いれば何をするのかを考えて実行することが必要になります。
 それは必ず過去の創造的破壊を含むものになります。政界が実力社会になら
 なければ、そんな力は出てきません。

《自民党株式会社は倒産の危機に》
 モラルとやる気については、自民党株式会社が治める日本国政府は相当問題
 を抱えているようです。

 この間は、現業部門でお客さんから預かったお金の記録が、5000万件も間
 違っていたことやお金をネコババした現業部門の社員が大勢いたことまで
 分かりました。それも氷山の一角と見られます。

 ムダ使いやリベートも相当あるようです。一番危ないのは、売り上げが上が
 らない分をお客さんからの巨額の借金で埋め合わせていることです。
 そして、借金の支払いをお客さんから強制的に穴埋めさせています。

 今にあの会社は倒産するのではないか、という噂が絶えません。そんなこと
 になれば、強制的に商品を買わされている我々はたまったものではありませ
 ん。

 先々代の小泉首相は中興の祖ともてはやされました。でも、このごろは、
 そのころの無理がタタって業績が落ちた、という評価に変わってきました。

 かといって、抜本的な経営改革を今度の新しい福田首相に期待できるわけで
 もなさそうです。そうなると、このごろ勢いがいい2番手会社にトップの座を
 明け渡すのでしょうか。注目されています。

《同じ島国でこれだけ違う政治家選びと育成法》
 地球の裏側の英国にも政治業界があります。伝統ある王国、島国、大陸の
 すぐそば、独自の文明などにおいて、英国は日本と似ています。
 とりわけ、60年ほど前に日本が立憲君主制に基づく、新たな国のかたちを
 始めてからは、憲法で書かれた政治や行政の仕組みは似通っています。

 でも、英国の政党は、日本とはずいぶん違った形で運営されています。
 まず、党の力が強く、各大学から優秀な学生を選抜して採用します。
 入社後は、新入党員は調査部に配属され、仕事の基礎を徹底的に叩き込まれ
 ます。

 その中で立案能力や実行力、説得力に優れたものだけが、選挙に出ることが
 できます。晴れて議員になっても、さらに熾烈な出世競争が待っています。
 ですから、英国の国会議員は粒揃いで優秀であり、国際競争にも堪え得る人
 材が多いと言われます。

 先日も、新しいブラウン政権で30代の若手兄弟が大臣に抜擢されて、話題に
 なりました。貴族は世襲の英国ですが、政界では世襲は例外です。会社に例
 えれば当たり前のことをやっているわけです。

 中国の政治は共産党という1つの政党が独占しています。でも、その中での
 人事管理と出世競争は熾烈です。上に行くには徹底的なチェックを受けます
 ので毛沢東や周恩来やトウ小平の子や孫といえどもトップになったケースは
 ありません。

 政治の世界で世襲が幅を利かせている点が日本に似ているのは、北朝鮮や
 アラブ諸国などでしょうか。いわゆる先進国では日本の政界は珍しい存在で
 しょう。

《民主党株式会社で日本は変われるか?》
 それでは、自民党株式会社が民主党株式会社に交代すれば、我々が強制的に
 買わされる政策商品の品質は向上するでしょうか。

 それは分かりません。民主党株式会社でも党の力が弱く、英国の政党のよう
 な優秀な新卒の採用や調査部での訓練など行っていません。議員候補を公募
 する時もお手盛りに近いケースも見られます。

 そのうえ、外の圧力団体からの採用も続いています。今のところ世襲の議員
 は少ないのですが、年月がたてば自民党株式会社のように2世や3世の議員が
 続くかもしれません。近代的な政党組織に脱皮することは民主党株式会社に
 とっても大きな課題です。

 そろそろ日本の政党も普通の組織に変わるべきでしょう。優秀な人材を広く
 集め、教育し競争させ、いい政策商品を開発しお客さんに売り込む。
 ライバルとの競争に勝つ。そうしたことで出世が決まる。生まれよりも実力
 がものをいう業界に生まれ変わることです。

《若いやる気のある人に任せなければ衰退の一途》
 日本では、農業も政界に似ています。戦後の農地解放で自作農以外は農地を
 持てなくなりました。それは小作人を守るためでした。あれから60年がたち、
 農地を持てるのは農家に生まれた人だけになりました。

 農業は世襲産業になったのです。今、農業を始める人の9割が、自家農家を
 継承する者です。年齢別で見ても、新卒の若者よりもサラリーマンを定年
 退職前後のシニア世代が多いのです。

 農家になれば農地と様々な優遇措置が手に入ります。リタイア目前の人が
 後継者の主流では農業が衰退するはずです。やる気のある農家以外の若い人
 が農地を手に入れ農業ができるようにならなくては、日本農業の復活はない
 でしょう。

 そして、国家権力を持ち、国民の命と財産を預かり、税金や保険料を取り
 上げる政治の世界も、世襲産業であることをやめるべきです。国民への貢献
 という物差しで実力競争をする業界に変えるべきです。

 そうでないと日本は衰退するでしょう。良い政治を行い、良い日本を作る
 責任が政治家にはあります。そのためには良い政治家が必要です。政治改革
 とともに政治家改革がこれからの課題ではないでしょうか。


 ●次号は近日中にお届けいたします。どうぞお楽しみに!

 ………………………………………………………………………………………
 ★メールアドレスの変更をご希望の方、またメールをご不要な方は、
  下記URLよりお手続きをお願いいたします。
 ◇メールアドレス変更 : http://www.yamazaki-online.jp/change.html
 ◇メールマガジン解除 : http://www.yamazaki-online.jp/stop.html

 ★また『山崎オンライン』上でも、随時、変更・停止手続き可能です。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
──●          山崎オンライン事務局
─■⌒■───────────────────────────────
      http://www.yamazaki-online.jp/
      E-mail: yyonline@yyoffice.co.jp


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━